2010年02月18日

VOW WOW LIVE 《ATUMIC ROOSTER Presents "アックスの奇蹟〜Veritas ! One-night Wonder"》

2009年12月25日(金)
会場 SHIBUYA-AX

メンバー

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山本恭司(G,Vo)

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新美俊宏(Dr)

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厚見玲衣(Key,Vo)

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元基(Vo)

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堀川真理夫(B)

photo by TOSHIO・F・DANIEL

類い稀なる美的センスの結集

 1990年に惜しまれながら解散したVOW WOW。それからおよそ19年もの歳月を経て、この日、まさに奇跡のコンサートが実現した。この日が近づくにつれ、それでも信じられないような気持ちもどこかにあった。だから夢見心地で会場に足を踏み入れたのだけれど、そんな人は、あながちぼくひとりではなかったかもしれない。

 2009年12月25日。神聖な気持ちになりそうなクリスマスの夜、ぼくたちは足早にSHIBUYA-AXへ集まった。長いあいだ、宝石箱にずっとしまい込んでいた、大切な思い出を一緒に携えて。

 少し早めに会場に到着し、指定された座席に座ってしばらく待っていると、女性の声でアナウンスが流れた。

「本日は〈ATUMIC ROOSTER Presents "アックスの奇蹟〜Veritas ! One-night Wonder"〉にご来場いただきまして、誠にありがとうございます。ここで、開演に先立ちまして、ご来場のお客様にご案内及び、ご注意を申し上げます。ただいま、ロビーにおきまして、本日限定。本日限定のTシャツを販売しております。今宵の思い出に、ぜひご覧ください。
 本日の公演でのカメラ。カメラ付き携帯電話、MDなどによる撮影、及び録音、その他、演出効果の妨げとなる物の使用は、一切禁止させていただきます。
 また、席を離れて舞台前へ駆け出したり、座席の上に立つなどの行為、舞台に向かって物を投げるなどの行為は、大変危険な上、ほかのお客様のご迷惑となりますので、絶対おやめください。
 開演中は携帯電話など、電子機器などの電源は必ずお切りください。
 客席での飲食、喫煙は禁止となっております。喫煙は、ロビーに設置しております喫煙所にてお願いいたします。
 本日は、演出効果向上のため、場内の避難誘導灯を消灯いたします。あらかじめ、お近くの非常口をご確認ください。
 なお非常時には直ちに点灯いたしますので、係員の誘導に従ってくださいますよう、ご協力、お願いいたします。
 最後に、本日の公演は、出演者の意向により、演奏中はスタンディング禁止。となっております。必ずご着席にてご鑑賞ください。もし守っていただけない場合は、演奏を中断することもありますので、なにとぞ、ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。それでは開演まで、首を長くしてお待ちください」

「本日の公演は、出演者の意向により、演奏中はスタンディング禁止。となっております」

 そうアナウンスされた瞬間、客席から悲鳴にも似たどよめきが起こった。
 ロックコンサートで事前にスタンディング禁止を通達された経験は、たぶんない。客席のみんなも気持ちは同じだったことだろう。
 一体全体どういうことなのか、この時点で理解できる人は誰もいなかったに違いない。
 おかげで "スタンディング禁止" の衝撃が大き過ぎて、ラストの「それでは開演まで、首を長くしてお待ちください」で、笑いを取り損ねた感さえある。
 ぼくはこの段階で今夜のコンサートがどのような展開になるのかまったく予測できなくて、その意味でドキドキしていた。ただし、このアナウンスがあったのは、開場して間もないときで、客席はまだ半分ほどしか埋まっていなかった。だから "スタンディング禁止" の注意を聞いていない人が多いので、そのこともぼくの頭を混乱させるに至った。"スタンディング禁止" のアナウンスを聞いていない人が本番中に立ち上がったらどうなるのだろうと、はじまるまえからそのことが頭を支配してどうにもならなかった。

 その後は客席が見る間に埋まっていく。コートを脱いで椅子の背もたれにかけたり荷物を足下に置いたりして、座席に腰掛ける。誰かと誰かが「久しぶり〜!」といった感じで手を振り合っている。そうしているうちに席がすべて埋まり、そろそろ本番だと、席に着いたみんなが緊張しはじめた頃、2ベル代わりの最終アナウンスがあった。

「それでは、大変長らくお待たせいたしました。〈ATUMIC ROOSTER Presents "アックスの奇蹟〜Veritas ! One-night Wonder"〉。まもなく、開演いたします。席を離れているお客様は、お化粧直しを済ませ、お早く、ご自分の席へお戻りください」

「お化粧直しを済ませ、お早く、ご自分の席へお戻りください」

 もう大ウケ。拍手まで沸き起こった。まったくナイスなアナウンスだ。

 そして

 まだ誰もいないステージの センターマイクに、真上からゴールドのライトが当たった。歓声と拍手の渦のなか、そのライトがすうっと消えていく。
 ふたたび薄明かりが灯って、会場全体に鐘の音が鳴り響いた。厚見玲衣さんと、新美俊宏さん。そして、ベースの堀川真理夫さんが登場。
 コンサートは、3人でスタートした。

 オープニングは、ディープパープルの「Hush」。ワイルドでリズミカルな演奏。会場は最初からノリノリで、みんな立ちたくてウズウズしている。でもガマン。なにしろ "スタンディング禁止" なのだから。
 「Hush」のサビを、厚見さんが厚い音で奏でる。そのまま、ザ・スペンサー・デイビス・グループの「I'm a man」に。厚見さんのヴォーカルが気持ちいい。オリジナルもかっこいいけど、この3人の演奏も激しい。ギターレスなのにそれを感じさせない厚い音。ステージの前に出て、堀川さんのベースソロ。これでもかというほど歪んだ音だ。まるでギターのような音をつくっての早弾きをしたあと、ステージの角にベースをこすりつけるパフォーマンスは、スタートの段階ですでに圧倒された。新美さんも最初からとばしてはじけてる。

「I'm a man」の演奏が終わると、厚見さんがMC。
「ありがとうございます。ちょっと軽くフェイントをかまして(笑)。"もうはじまるのか!?" って思った人もいると思いますけど。ディープパープルのナンバーから "Hush"。続いて "I'm a man" をお届けしました。
 それではですね、このミラクルシリーズは今回で3回目なんですけれども、3回目にしてようやくと言うか、とうとうと言うか、ついにと言うか、最強のメンバーが揃いました!」
 会場から大きな拍手と歓声が上がった。みんな、この日をずっとずっと、ずっと待ち望んでいたのが痛いくらいにわかる。
 厚見さんが続ける。
「と言うと、いままで最強じゃなかったのかな、なんて思う方もいると思うんですけど、まぁでも、……最強です!
 じゃあ最強の、日本のハードロック史上最強の、リズムセクションを紹介します」

 堀川さんと新美さんを紹介したあと、厚見さんのMCは、まだ続く。
「このミラクルシリーズ。コンセプトはですね、60年代後半から72年か73年くらいですかねぇ。その、"ロックの黄金期" と言われている時代の、特にハードロックを現代に再現しようじゃないかと思って、ぼくのお目に、というか、耳にか。に、かなった人を集めているんですけれども、この方がいないと、このコンセプトは完成しません。ハードロックのすべてを知り尽くした男。山本恭司!」

 大歓声のなか、山本恭司さんが肩からレスポール・ジュニアを下げて登場。スティーヴィー・ワンダーの「superstition」を、ギターを弾きながら豊かな声量で、信じられないかっこよさで唄う。あの曲がこんなにかっこよくなるなんて、それこそ信じられない気分だった。音の強弱も非常に効果的で、そのせいでみんなが音にどんどんのめり込んでいく。最後は新美さんの短いドラムソロでビシッとシメるあたりも、なんとも心憎い。

 厚見さんの重層なキーボードソロのあとにフェンダーのストラトの弾き語りだけで静かにはじまったのは、ジミ・ヘンドリックスの「Little wing」。ヴォーカルは恭司さん。厚見さんが弾く白いメロトロンに、恭司さんのやわらかいギターソロがかぶさってきて、とてもやさしげで、そして悲しげな曲になっていた。

 「Kyoji Yamamoto!」と、厚見さんが紹介して、恭司さんが手を挙げて歓声に応えた。

 厚見さんのMC。
「ありがとうございます。"まだもう1曲唄うのかよ" って言われそうなんですけど、もう1曲唄ってもよろしいですか!?」
 会場から拍手。それを受けて、厚見さんはこう言った。

「昨日からカラオケ屋で練習してきたんで、唄わせてください。……クリスマスプレゼントは、もうすぐですから(笑)。もうすぐですから! その前に1曲。ヴァニラ・ファッジのナンバーから、"You Keep Me Hanging On" を聴いてください」

 そういってはじまった演奏は、オリジナルのヴァニラ・ファッジというよりは、明らかにロッド・スチュアートのヴァージョンだった。
 ヴォーカルは厚見さん。恭司さんがコーラスで厚みを加える。久しぶりに聴いたロッド・スチュアートのヴァージョンは、それこそ若い頃のことを思い出して、甘酸っぱいような、そんな不思議な気持ちになり、なぜか目に涙が浮かんできた。ぼくはなにもかも忘れてじっと聴き入っていた。堀川さんのベースソロや、レスポール・ジュニアで弾く恭司さんのギターソロも含め、とにかくかっこよかった。かっこよすぎるくらいにかっこよかった。万が一ライヴ・レコーディングされていたら、絶対にCDで聴きたいテイクだ。

 曲が終わると、恭司さんが紹介した。
「ヴォーカル、キーボード。そして、今回のスペシャルなイベントの立役者。 厚見玲衣!」
 会場から大きな拍手と歓声。それに手を挙げて応える厚見さんが、すぐに演奏をはじめた曲は、「ホワイトクリスマス」。ヴォコーダーを使って何重にも聞こえる厚見さんのヴォーカル。最高にプログレッシブな音の作り方だ。

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 そのままキーボードソロになり、新美さんのドラムのタイミングで白い証明で埋め尽くされたステージに、ついに人見元基さんが登場した。

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 「"Shot in The Dark" !!」と、元基さんが曲名を叫んだ。
 客席では、たまらず立ち上がったお客さんがいたけど、警備員に連れ去られることもなく、そのまま自由にさせていた。
 元基さんはえんじ色したデニムのパンツに、ポインターらしき犬がプリントされた長袖のTシャツ姿。みんながビシッと決めているのに、ひとりだけカジュアルな出で立ち。
 しかし、そんなことは一切お構いなしに、現実に目の前にいるのはVOW WOW。演奏されている曲も、さきほどまでのカヴァーではなくて、正真正銘、VOW WOWのメンバーによるVOW WOWの楽曲だ。これで立つなと言うのはあまりに酷だ。元基さんが両手を大きく広げて会場を煽る。このときの客席にいるみんなの脳みそからは、きっと驚くほどのアドレナリンが分泌されていたことだろう。しかも、元基さんの声は信じられないほど豊かな声量と表現力だったのだ。これで、一体誰が興奮しないでいられようか。

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「大変長らくお待たせしました」
 曲が終わったあとの厚見さんのMCは、どこか客席の興奮をわざと冷ますような言い方だ。
 でも厚見さんが「人見元基!」と叫ぶと、会場は興奮のるつぼ、そのまま。元基さんは熱狂的な声援で迎えられた。

 元基さんが叫んだ。
「センキュー! ……バンドもいいもんだな(笑)」
 会場からいっせいに拍手が。そして元基さんがもう一度。
「センキュー。本当に、お久しぶりで。なんつうんですか? 一般的に言うと、年月の過ぎるのは早いものでね。このあいだVOW WOWが解散コンサートをやったと思ったら、……あっという間にクリスマスですよぉ(笑)。いやぁ、みなさん年賀状は書いていますか? もう冬ですからねぇ。
 さっきメンバー紹介がありましたけどね、……(厚見さんと顔を見合わせて)えっ? しゃべるなって?(笑)」
「新橋の居酒屋じゃないんで、先生、頼みますよ(笑)」(厚見さん)
「オン・ベースね、若いですねー。堀川真理夫くん! もう一度大きな拍手を」
 ステージを包み込むような温かい拍手。
「若いと言っても40過ぎているんですけどね(笑)。俺たちのスタンダードで行くと、40代は若いって感じで。本当に今日は、客席の女性方も若い人が多いですね」と言いつつ、笑っている元基さん。
「たぶん、俺はこれが言いたかったんだな(笑)。……、……すみません。ブチ壊しにしている感じが(笑)。……(厚見さんを見ながら)ん? ここは本当はしゃべっちゃいけなかったの?」
 厚見さんが笑って頷く。
「あっ、そうなんだ?(笑)。オッケーごめんごめん。じゃあ、次の曲ね(笑)」
「じゃあ、やろうか!?」(恭司さん)
「オッケーオッケー、ちょっと待って。このテンションから、いま違う人に持っていきますからね。……降りてこい、降りてこい……、"いたこ" のような、ね(笑)」

 きっと上からなにかが降りてきたのだろう。先生がVOW WOWの人見元基に戻って唄ったのは、「Go insane」。唄っている姿は、MCのときとはたしかに別人の元基さんだ。恭司さんのしなやかなギターソロのときなど、元基さんは何度も飛び跳ねている。
 こうして改めてVOW WOWの演奏を聴いていると、元基さんはVOW WOWのヴォーカリストにふさわしいと、つくづく、しみじみ思う。これほどVOW WOWの楽曲に合うヴォーカリストは、元基さん以外には考えられない。ぼくは勝手に、"元基さんには絶対にVOW WOWを再結成させてほしい" と、この曲を聴いているあいだ、身勝手にも必死の想いで心のなかで念じた。

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 次は、「Don't tell me lies」。名曲がずらりと並ぶ。元基さんの説得力のあるヴォーカルは相当なものだ。全盛のときよりも声が出ているのではないかと、何度も何度も驚いた。最高のテクニックを持ったメンバーが5人。最高にゴキゲンな楽曲を演奏する。恭司さんが元基さんのそばに来て掛け合いのようにギターを弾くパフォーマンス。コンサートは信じられない奇跡がいっぱいちりばめられていた。

 曲が終わり、「センキュー」と元基さん。恭司さんがヤマハのHR山本恭司モデルをつま弾く。「Pains of love」と、元基さんがささやくように言って、曲がスタートした。
 深く、伸びのある声。本当に説得力がある。バラードが、それ以上のなにかになっいる。単なるバラードよりも、もっと壮大ななにかに。やはりこのバンドのスケール感は世界屈指といえる。ここまでスケールの大きな楽曲をものの見事に演奏するVOW WOWを見ていると、自然と涙がこぼれ落ちた。客席は、しんと静まりかえり、微動だにしないでステージに集中している。
 曲が終わると、夢から覚めたような歓声と拍手。

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「センキュー」と元基さん。

 次に厚見さんのキーボードではじまったのは、キレ味鋭い「Don't leave me now」。名曲中の名曲だ。コーラスも見事だし、ラストの元基さんのヴォーカルはまさに圧巻だった。この曲が聴きたくて、みんなここに集まったような、そんな感激が会場全体を支配した。スタンディング禁止だったために、余計にじっくりと音楽を堪能することができた。スタンディング禁止の効果は、どうもメンバーの期待以上に大きかったようだ。

「センキュー」元基さんが言う。「センキュー。ありがとう」

 次は、恭司さんのギターソロ。ギターが何本もあるかのような音をつくって奏でられる幻想的で、ときにブルージーな旋律。
 実をいうと本番の数日前から、恭司さんは高熱を出して寝込んでいた。なんとか本番には間に合わせたものの、熱の影響でギターソロのときに指がつって大変だったと、あとになって聞いた。そんなことを微塵も感じさせないすばらしい演奏は、本当にみんなの心をひとつにしていた。ぼくに言わせれば神業と表現したいくらいの感動があった。

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「オン・ギター、山本恭司!」と元基さん。大きな拍手に恭司さんが両手を挙げて応えた。

 そしてはじまったのは、「Siren song」。ノリノリの曲で、客席はウズウズしてしょうがない様子だ。いまにも爆発しそうな雰囲気。そんな予感が充満していた。一夜限りにせよ、19年の時を経て全盛期を彷彿させるパフォーマンスは、19年前の解散時よりも味わい深いものになっていた。まったくもって見事というほかない。

「センキュー」と元基さん。「そういうわけで、一応MCなんだけど(笑)。普段はMCが長いセッションをやったりするんですけどね。今日はちょっと人格は違う人格に設定してあるんでね(笑)。あんまり無駄なことがしゃべれないという、ね(笑)。でもねあのね、思い出すと、あれなんだよ。VOW WOWもイギリスとかアメリカから帰ってきたあとかな。くだらないことをしゃべっていて。思い出すのはメンバー紹介のときに、"ギターの神様、山本恭司!。オン・キーボード、仏様!" とかね(笑)。"オン・ドラムス、ドラムの殿様!" とか(笑)。"すみません。ヴォーカル、何様?" みたいな(笑)。そういう……、すみませんね。そんなことはどうでもいいんです。そうやっているうちにですね、着々とですね、今日という日も過ぎていくわけですよ(笑)」。
 客席から「いやだ〜!」の声を受けて元基さんが、
「いやだよなぁ? じゃあみんなでここで、神様にお祈りしよう。"神様、今日という日が、永遠に続きますように!"。……でも、それも困るな」

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 笑いの渦のなか、はじまったのは「Nightless city」。音が出た瞬間、空気がビシッと締まるのもさすが。瞬間的に人格を変えられるあのワザ、今度機会を見つけて元基さんから直々に教わりたいものだ。
 それにしてもここまで盛り上がっていながら立ち上がることができないなんて。サビの部分なんてお客さんも一緒に唄って大合唱状態だったのに。みんなの気持ちはいまにもはち切れんばかりに膨れあがっていった。ただその分、単にノリノリになるだけではなくて、じっくり聴いていたのもまた事実。

 気持ち的に爆発寸前の興奮状態となった「Nightless city」が終わると、元基さんが、

「エブリバディ、クラップ・ユア・ハンズ。みんな、立ってもいいぜぇ!」

この一言が、みんなの導火線に火をつけた。

「カモン!」元基さんが言う。

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 曲は、「You're the one for me」。
 もちろん客席は総立ち。押さえていた熱が一気に放たれたように、ボルテージは一気に最高潮に達した。この憎いくらいの演出に、結果的にぼくたちは見事にハメられた形となった。否応なしに、これ以上ないくらいの盛り上がりになる。

「センキュー!」と、元基さんが2度繰り返した。
 客席では男性も女性も関係なく、あっちこっちからステージに向かって歓声が上がる。
「はい。叫ぶならいまのうちですよ」と、冷静な元基さんがまたおかしい。しかも、次のコメントがまた受けた。
「いま叫んでおかないと、また20年くらい叫べないからね(笑)。……20年後にはいねえだろって感じだけどね(笑)。
 なんだかんだ言って今日もね、なんて言うんですか、そのぉ、楽しいときというのは、過ぎるのが早いですね。なんと、」で、ここで区切ると、客席からいっせいに「え〜〜〜!?」の声。
 すると元基さん、「OK、OK、オッケー。いいぞぉ(笑)。でもほんと、そういうことなんだよ。 厚見玲衣くんの企画で」と話そうとすると、厚見さんが割って入った。
「先生が来るまで一生懸命に前座を務めさせていただきました。どうだったでしょうか!?  厚見玲衣バンド。どうだったでしょうか!?」
 もちろん、会場から大きな拍手と喝采。
「どうだったでしょうか、先生?」(厚見さん)
「素敵でした(笑)」(元基さん)
「ありがとうございまーす」(厚見さん)
「特に "You keep me hanging on" が素敵でしたねぇ」
「いやぁ、客席から "早く人見元基を出せ!" って視線がもう……、辛かったですよ、ぼくは!」(厚見さん)
「はははっ!」(元基さん)
「改めて 厚見玲衣に感謝。 厚見玲衣13世!」(恭司さん)
 厚見さんが両手を広げて会場に挨拶。そして、
「でも人見くんもなんだかんだ言って、このバックのメンバーが、一番いいんじゃないの!?」(厚見さん)
 その言葉に大きく頷いたのは、きっとぼくだけではなかったはずだ。
「やっぱり、バンドはいいね」(元基さん)
「いつでもバックバンドするけど」(厚見さん)
「バックバンドじゃねぇだろ(笑)」(元基さん)
 そして元基さんが、ひと言追加する。
「いま、なにげに、みんな聞いていなかったんだけども、"厚見玲衣13世" と言ったんですね」と、スルーしてしまった恭司さんのコメントをフォローした。こうなるとステージ上のメンバーも客席も、みんながしあわせそうな笑顔で笑っている。VOW WOWの音からはなかなか想像しにくい、めちゃくちゃ微笑ましい一コマだ。
「いや、本当のことを言うとね」と、元基さんのコメントが続く。
「VOW WOWの曲を、3日間、練習しまくりましたよ。全60曲」
 真顔で言うから、客席から歓声と拍手が起きてしまった。
「大体60曲。1日20曲。3日で60曲。だからもう、どんなリクエストにも応えられますよ」
 会場が一気に沸いた。いろんな曲名が飛び交う。
「わかったわかった。わかった」と元基さん。「じゃあ、いま一番声の多かった曲をやります」と言って笑っているのは、元基さん本人だった。

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 きれいな、とてもきれいなイントロではじまったのは、「Shock Waves」。ステージの足下にはドライアイスがたちこめて幻想的な雰囲気のなかで元基さんがていねいに唄い出す。次第に音が厚くなっていき、それでもまだ抑え気味の演奏。とても19年ぶりに集まったとは思えないほど音がまとまっていて、しかもメンバー全員が眩しいくらいに輝いて見える。最高のバンド。最高のバンドのひとつ。それがVOW WOWであることは、この夜を体験した人は誰ひとりとして疑う余地のないほどすばらしいパフォーマンスだった。なかでもこの曲の後半の、元基さんのヴォーカルは、誰にも真似できないような感動をぼくたちに与えてくれた。

「センキュー! センキュー!」元基さんが叫ぶ。そしてもう一度。「センキュー。どうもありがとう!」

 メンバーが手を挙げながらステージを降りていく。
 なんて素敵なクリスマス。こんなクリスマスは、生まれてはじめてだ。19年の時を経て蘇ったのは幻ではなく、夢でもない。まさに奇跡を目の当たりにしたとしか言いようがない目の前の現実に対して、それでもまだ、どこか半信半疑だったような、そんな気もしている。

 アンコールの声が大きくなるなか、メンバーが登場した。

「懐かしいよね!」と、満面の笑顔で恭司さんが言った。続けて、
「どう? みんな、楽しんでもらえましたか!?」
 会場から大きな拍手。
「センキュー!」と恭司さんは言って、さらにこう続けた。
「ちょっと、ロックコンサートっぽくしようか!? アー・ユー・レディ!? イェーイ! イェーイ! イェーイ!」
 会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
「オーライ。じゃあみんながお待ちかねの、この曲を」と恭司さんが言ってはじまったアンコールの1曲目は、「Premonition」から「Hurricane」。こうして改めて聴いてみると、VOW WOWには名曲がいかに多いかが、実によくわかる。このバンドのこの曲たちだから、日本人はもとより、世界中のたくさんの人たちを熱狂させることができたのだ。サビのコーラスの美しさが、VOW WOWの真の実力を如実に現していると思う。

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「センキュー!」と元基さん。「センキュー、エブリバディ! どうもありがとう」。そう言って、元基さんが手を挙げる。
 メンバーが全員、ステージ中央に集まった。
「メンバー紹介はいいの?」(厚見さん)
 そして、厚見さんは真面目な顔でこう続けた。
「ひと言、どうしても言わなきゃいけないことがあるんですね。ちょっと聞いてください。
 実は、この12月25日、SHIBUYA-AXっていうのは、もともと忌野清志郎さんのために押さえてあった枠でして。それで今年(2009年)の3月頃、まだお元気だったんですけれども、"今年はとりあえず療養するので、厚見くんなら譲ってもいい" といことこで譲り受けて。忌野清志郎さんご本人。ベイビーズの相沢さん。フェイス・クルーの蔦岡さん。SOGOの木原さん。のご厚意によって譲り受けて、今日こうして無事にコンサートができました。清志郎さんには、最後の最後までお世話になりました。本当にありがとうございました」

 厚見さんが、深々と頭を下げた。メンバーもみんな、深く頭を下げる。客席から、何ともいえない拍手が静かに起きる。もう涙が止まらない。こんなことって。こんなことって……。
「それから、今日ここにいらっしゃっているみなさん。メンバーのみなさん。スタッフのみなさん。家族のみなさん。すべての方々に感謝します。どうもありがとう」
 そう言って、また厚見さんが深く頭を下げた。続けて、
「我々VOW WOWはね、1990年に日本武道館でやったあと、突然秋に解散表明をして、解散コンサートをしなかったんですよねぇ。まぁ、それはメンバーの意志だったんですけれども。ですから、今日が解散コンサートだったと思って」
 ここで会場から「え〜〜〜!?」という大ブーイング。それに負けじと、厚見さんがこう言った。
「ようやく、解散しました! ありがとう!(笑)。……まぁ、再結成の噂とかね、たまに2チャンネルでバカな奴が書いていますけど、ありません。ただ、今日のために3日間だけリハーサルしたんですけど、3日にしてはすごいと思いませんか!?」
 会場からすばらしい拍手。たしかに間違いなく、誰だってそう聞いたら驚くくらい、とてつもなく高いレベルのコンサートだった。
「たった3日間ですよ!? たった3日で、老体にムチを打って、ここまでやる。むかしの衣装を着る。(元基さんを指して)むかし、現役のときに出なかったような声も出してる。"Shock Waves" のブレイクのとこなんか。あれはCDでしか聴いたことないですよ。ぼく、でも今日聴きましたよ、あのハイトーン! スーパーGですよ、G!」
 会場は喝采の海と化した。さらに、
「ロバート・プラントが全盛のときの、"コミュニケーション・ブレイクダウン" を超えるような、ぶっといハイトーンを聴きましたよ、私。
 ですから、"解散コンサートなら、まぁやってもいいんじゃないか" というんで。まぁ、来年、気が向いたらやります。"解散コンサートPart.2" を(笑)」
 会場は割れんばかりの拍手。どこまで盛り上がるのか、見当もつかない。厚見さんが続ける。
「ただね、それには条件があって、私、今回、Tシャツ屋さんになっていて(笑)、Tシャツで儲けようっていう魂胆なんですよ。で、まだ売れ残っているみたいなんで、もしよかったら買ってもらって、完売になったりすると、来年すぐ "解散コンサートPart.2" が(笑)、見れますので、よろしくお願いします」
「メンバー紹介は?」(元基さん)
「あっ、メンバー紹介しますね(笑)。VOW WOWのメンバーじゃなかったんですけれども、キンさんが脱退したあと、あとニール・マーレイが脱退したあと、けっこう日本人、アメリカ人、イギリス人って、たくさんオーディションしたんですが、そのときにもしも堀川真理夫さんが来ていたら、一発で合格でした。オン・ベース、堀川真理夫!」
 場内から温かい拍手と歓声。
「で、向かって右から。この人はすごいです。もう、ホメ殺ししちゃおうかな(笑)。いや本当に、改めて新美俊宏のすごさを、この3日間で感じました。疾走感やスピード感をキープしつつも、1コ1コの音が重い! ヘヴィ! これはなかなか両立できることではないんですよ。それを成し遂げた、数少ない日本人ハードロック・ドラマーです。新美俊宏!」
 大きな歓声と拍手に、新見さんが手を挙げて応えた。そして厚見さん。
「だんだんしゃべりも乗ってきました」
 これにはメンバーも会場も大ウケ。元基さんが手を叩いて笑っている。
「じゃあ次は、老体にムチを打ってすばらしいプレイをしてくれた、……まぁこの人はね、褒めても意味がないくらい、わかる人にはわかっているんです。世界1のハードロック・ギタリストです。山本恭司!」
 客席からたくさんのかけ声と大きな拍手。それに恭司さんが手を挙げて応え、ていねいにお辞儀をした。
「え〜、最初は気乗りしなかったのを、ぼくが現ナマでひっぱたいて連れてきました。あるときは高校教師。あるときは新橋の酔っぱらい。その実態は……、スーパー・ハードロック・ヴォーカリスト、人見元基!」
 大歓声に元基さんが両手を広げて応えた。そして、深々とお辞儀をする。
「じゃあ、総合司会の 厚見玲衣でお送りしました(笑)。で、くどいようですけれども、お帰りになるときは、Tシャツ売り場に……、たった3,500円、4,000円、……高いですねぇ(笑)。でもこれが! 次の解散コンサートの資金になりますので!(笑)。よろしくお願いします。ありがとうございました! じゃあ、よいお年を!」
 メンバーが、ステージ中央に集まって肩を抱き合い、客席に向かってゆっくりとお辞儀をした。会場からはいつまでも惜しみない拍手が続く。それはメンバーがいなくなっても続き、「もう1曲!」「もう1曲!」という熱い気持ちが、痛いほど伝わってきた。

 客電がついて明るくなり、アナウンスが流れた。
「以上をもちまして、本日の公演はすべて終了いたしました。どなた様もお忘れ物のないよう、係員の指示に従い、順次ご退場ください。本日は〈ATUMIC ROOSTER Presents "アックスの奇蹟〜Veritas ! One-night Wonder"〉にご来場いただきまして、誠にありがとうございました。みなさま、よいお年をお迎えください」
 そこまで言われても、誰も帰ろうとしない。みんな、ステージを凝視しながら熱い拍手を送り続けている。
 いつまで経っても誰も帰らないので、今度は男性がアナウンス。
「以上をもちまして、本日のライヴはすべて終了となりました。本日のライヴはすべて終了となりました。本日は、ご来場、誠にありがとうございました。以上をもちまして、本日のライヴはすべて終了となりました。本日は、ご来場、誠にありがとうございました」
 何度も繰り返すアナウンスをものともせず、客席の拍手はいつまでも続く。
 するとどうだろう。やはり願い続ければ夢は叶うのだ。
 厚見さんが、ショルダー・キーボードを弾きながらステージに現れた。ほかのメンバーが、厚見さんのあとに続いてステージに登場。割れんばかりの大歓声が会場を揺るがせた。

「イエーイ!」と、元基さんが客席を煽ると、観客も手を挙げたり声を上げてそれに応えた。そして元基さん。
「60曲練習したって言うのは、ウソだからね〜(笑)。本当に(笑)。だから演る曲がないんだよ、もう」
 と言うやいなや、恭司さんが歪んだ音でリズムを刻みはじめた。それにほかのメンバーの音がかぶさってくる。厚見さんがステージ前に出てショルダー・キーボードを弾く。
「サマータイム・ブルース!」元基さんが叫んだ。2コーラス目にチラッとレッド・ツェッペリンの「Rock'n'Roll」。元基さんがマイクを振り回す。メンバーも客席も、これ以上ないというほど、とびっきりの笑顔だ。元基さんのヴォーカルと、恭司さんのギターの掛け合いは、即興とは思えないくらい息がぴったりと合っていた。
 そして今度は、元基さんと客席の掛け合い。途中でディープパープルの「スモーク・オン・ザ・ウォーター」の音も飛び出しながら、ものすごい盛り上がりを見せた。元基さんはマイクを振り回して、これ以上ないような満面の笑顔。ラストでは、厚見さんがショルダー・キーボードをステージの角にこすりつけてから下を投げ落とした。

 興奮冷めやらぬなか、元基さんがひと言。
「え〜、厚見くんがTシャツを買うようにいっているので、買ってくださ〜い(笑)。センキュー!」
 新美さんも含めたメンバー全員がステージ前に出て手を振ったりお辞儀をしたりするなか、元基さんが最後のひと言。
「おしま〜い! よいお年を!」
 メンバーが、やさしい笑顔とともに、それぞれ手を振りながらステージを降りた。

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 そのとき、今度こそ、本当に終わったのだと思った。それでもまだ、幻かそれとも夢を見ているような気持ちだった。しかし、幻でも夢でもない。目の前で繰り広げられた見事なパフォーマンスは、現実のことだった。

……… ……… ……… ……… ……… ……… ……… ………

 このバンドを、このまま解散させてておくなど、なんて罪深いことなんだろうと思う。それは、世界の音楽業界の大きな損失に値する。
 ともあれ、何度もお伝えしているように、それはあくまでもぼくの個人的な感情であって、現実には、きっと想像もできないくらいにいくつもの難題が山積していることだろう。
 それでも、やはりできることなら、解散コンサートのPart.2の実現と、どの曲でもかまわない。もう一度だけでもいいから、この夜のメンバーでレコーディングして欲しいと、ぼくは切に願う。

 メンバーみんなの清らかな魂から生まれたVOW WOWの美的センスは、何百回聞いても飽きることのない感動をもたらしてくれる。この夜、ぼくは痛切にそう感じた。
 と同時に、ぼくの人生の一部にVOW WOWがいてくれることを、とってもしあわせに感じるし、心から感謝したい気持ちでいっぱいだ。VOW WOWが存在していることによって、ぼくの人生は、明らかに豊かになっているのだから。

…………………………………………………………………

Set List

1. Hush
2. Superstion
3. Little Wing
4. You Keep Me Hanging On

5. K.solo 〜 Shot in The Dark
7. Go Insane
8. Don't Tell Me Lies
9. Pains Of Love
10. Donn't Leave Me Now
11. G.Solo 〜 Siren Song
12. Nightless City
13. You're The One For Me
14. Shock Waves

アンコール1
15. Premonition 〜 Hurricane

アンコール2
16. Summer Time Blues
posted by suemi at 02:00| Comment(4) | TrackBack(0) | 【LIVE REPORT】